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2015 年07 月29 日

次の敗戦後(財政破綻後)の日本経済の姿とは

金融法務事情2019号(2015年6月10日号)の巻末に掲載されているコラムから。
銀行関係者向けの法律雑誌にここまで政権に批判的で悲劇的なコラムが掲載されるとは驚きであるとともに、率直に直視すべきだろう。

●本当にこの道しかなかったのか。歴史は不可逆である。平成26年12月、安倍晋三首相は「この道しかない」と消費税率10%への引上げを見送り、衆議院解散に打って出た。衆院選の勝利の余勢を駆って、今春の統一地方選も難なく乗り切った。そして、一見、世は好況に沸いている。株高、円安、税収増、賃上げなど。そもそもこれらの経済指標は表面的に都合の良いものを拾っているというだけの説も。宴はいつまで続くのだろう。とはいえ、とりあえず経済は悪くなさそうだ。ただ、ある程度の常識感覚のある者であれば、今の好況は長くは続かないと感じている。好景気の要因は原油安・円安だから。
●一体、あの「三本の矢」は今どこを飛んでいるのだろう。成長戦略、例えば、「地方創生」というのは筆者の個人的感覚ではまやかしのようなものだと思っているが、百歩譲ったとしても、これらの施策に即効性は乏しく、10余年はかかる息の長い話である。異次元緩和の出口も見えていない。むしろ、そろそろ限界なのではないか。
●そして、財政再建については、今夏の財政健全化計画の策定に向け、議論を進めているが、消費税を上げずして、プライマリー・バランス(PB)の黒字化は不可能。また、PBの黒字化の説明は困難との計略から、債務残高の対GDP比率縮減目標も議論されているが、真っ当な識者であれば、現実から目をそらす議論にしか思えないはずだ。
●政権周辺は成長戦略の幻想に酔っている(あるいは現実直視を拒否している)のではあるまいか。政治の笛吹で、政権にすり寄ることばかり考えており、政権周辺の有識者も宴を加速化さえすれど、水を差す者はいない。笛が止まって幻から解けるのは一体いつになるのだろう。
●先ごろ、政府の長期債務残高が1000億円を超え、家計・企業の現金預金残高を超えた。もはや、日本国債が内国債であることをもって安心であるとの議論も説得力を欠く。また、バーゼル銀行監督委員会で国債への自己資本増しの議論も行われている。果たして、財務省ではXデー・プランを準備しているのだろうか。
●数少ない取組みとしては、東京大学金融教育研究センターにおいて既に平成24年6月から「「財政破綻後の日本経済の姿」に関する研究会」を開催し、財政破綻後の姿を占っている。議論の概要は議事録で確認できるが、今のところ破綻後の明確な姿までは描けていない。ただ、誰の目にも明らかだが、破綻の際は急速な調整による国民生活への多大なしわ寄せが生じるだろう。(略)1990年代末の韓国の破綻では、失業、貧困、自殺などが増加し、国民生活に甚大な悲劇をもたらした。
●歴史上、「こうなることは明らかだった」ということは少なくない。先の太平洋戦争における敗戦も、今回の財政破たんもまた然り。いつの時代も苦労するのは何もわかっていなかった庶民や子供達だ。また、国力が弱まったときには、他国につけ入れられる隙が大いにある。そろそろ政権担当者は正気を取り戻して次の敗戦(財政破綻)を見据えて行動を始めるべきだ。いずれによせ、この経済敗戦は避け難い。

投稿者:ゆかわat 07 :35| ビジネス | コメント(0 )

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